南青山アンティーク通りクリニック

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見えないもの(6編)

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第五十三話 しっぽを振る犬

令和八年九月ニ十五日(金曜日)


 数分後に自宅に着く。
 家族が飛び出してきた。表情は心配そうにしている。
「私は若い女性ではないから、大丈夫だよ」と言おうとした瞬間に、カウンターパンチを食らう。

「彼女のデート、楽しかった」と話しかけてきた。

 ひと昔、
 俺たちひょうきん族という懐かしの番組があった。
「冗談はよせ」という吉本の、知る人ぞ知る、ある有名な言葉で返したかった。
が、そういう元気はない。
すべての言葉は私の頭を通り過ぎた。
冷水のシャワーを浴びて、洗面所に立った。
自分の顔が、鏡に映った。少しだけ鏡を見た。生気がない。死人のような顔立ち。

 後方で、笑いながら眺めている家族がいた。

 その中間に犬が困った顔をして、両陣営のいずれにもかわいくしっぽを振っていた。
 私につくべきか、家族と一緒に吠えるか、迷っていた。
 関ヶ原の戦いの後の焼け野原。
 子犬は、
「僕、どうしよう」と迷っていた。

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